日本には世界に誇るべき、高い技術力を持った中小企業がたくさんあるが、愛知県豊田市にある「アピュアン株式会社」もそんな会社の一つだ。平成9年設立以来、大手自動車会社の下請けとして、常に高いレベルの要求に応えてきた。そんなアピュアン株式会社がこの度、初の自社製品となる精密微反動工具「アピュアン・ブルー」を開発。そこにはどんな想いが込められているのか、全国展開する地域ブランド「サムライ日本プロジェクト」主宰の安藤竜二が、渡部幸雄社長に話を聞いた。

安藤竜二(以下安藤) まず渡部社長について教えていただけますか?

渡部幸雄(以下渡部) 愛媛の山の中で生まれ育ちましたから、いつでも山の大自然が遊びの舞台。しかし、何もしないでいて楽しいわけではありませんから、自分で楽しもうとしなければいけません。自分で遊び道具を作ったりと、色々創意工夫をするわけですね。それが私のものづくりの原体験になっていると思います。

 愛知県にやってきたのは中学を卒業した15歳の時でした。当時はボウリングとクルマの時代。カローラやパブリカ、ブラボーコロナという人気車種を造っていたトヨタ自動車の養成所「トヨタ学園」に入学し、働きながら勉強をしました。卒業後は、トヨタ自動車で機械検査作業士として腕を磨きました。当時は「分かっていて不良品を出したなら辞めちまえ!」という厳しい言葉も飛び交っていましたが、実はその人のことを想って叱ってくれている、という人情の時代でもありました。そんな時代、環境の中でトヨタの「ものづくりのDNA」を叩き込まれました。

安藤 世界トップレベルの技術を要する現場で修行されていたんですね! 起業しようと思ったきっかけは何だったのですか?

渡部 新しいことにチャレンジしたいという気持ちが捨てきれなかったんです。平成9年に豊田市内に「アステック株式会社」を設立しました。前職で培った技術を生かした、自動車部品製造を生業とする小さな町工場ですが、中国の大連にも提携工場があるんですよ。

 トヨタ自動車時代のお客さんの会社に、出向社員として働いていた大連出身の中国人の方との出会いがきっかけでした。彼は工学の勉強が目的で来日していた工学博士。人のことを考えることができる、中国人らしくない中国人で(笑)。彼の工学に対する想いや人柄が気に入って、意気投合したんです。彼が大連で工場をやるというので、現在、お互いに協力しあう、業務提携工場という関係でやらさせていただいています。

 その工場は今では社員30名を抱え、トヨタ自動車を始めとした日系企業の部品加工などを請け負っているんですよ。