安藤 大学の非常勤講師や客員教授として教鞭もとっていますよね?

神谷 デザイナーを目指す若者の多くは、「自己の確立」とか「他人と違うものを作れ」ということを教えられてきています。僕はそれを「クソくらえ」と否定することから始める。自分のエゴを形にするだけなら、それはただのゴミを生むだけ。お前ら、産業廃棄物作るために生まれてきたのか?って。僕らには、この時代の人間に生まれた役割がある。己を捨て、自分をいじめ抜き、相手のことを考える。環境のことを考える。大事なのは「優しさ」や「思いやり」、未来を想像することです。

 激流に逆らって立ち続けることは、とてつもないエネルギーの要ること。上手に川の流れに流されればいい。「他力」でいいんです。人や社会にどんどん影響されればいい。かつて恐竜の時代に生き延びた小さな哺乳類が我々の祖先ですよね。次代にバトンを引き継げるのは、決して強いものではなく、変化する環境に順応できるもの。この激動の時代でデザイナーとして生き残るためには、アイデンティティを確立するよりも、時代の流れに合わせて姿形を変え、順応することが大事だし、私自身もそうありたいと思っています。

 農学部出身で、芝居やって、バーテンやってきた僕にとって、デザインのアイデンティティに対するこだわりは皆無に近い。それこそが僕の強みかもしれません。「神谷っぽいデザイン」なんて言われたらもうおしまいですよ。「神谷君の作るアレがいい」ではなく「お前が作る『何か』がいい」と言ってもらいたい。素敵なカクテルを作るバーテンではなく、安いウイスキーでも「お前がついでくれたからうまい」と言われるのが理想ですね。

 例えば、ニジマスの鱗の色は何色と言えるのか。自然の持つ美しさに、人間のデザインは適わない、自然の素材に答えを委ねることが正しいと思ってやってきました。デザイナーはデザインを殺したほうが、実はいいものができたりする。木材や鉄、土といった「素材」がその答えを知っているんです。

 また、繁盛するために何ができるかをとことん考えぬくことで、僕はメニューや営業方針にまで口を出してしまいます。普通、デザイナーとしては越権行為、「おせっかい」です。僕のそういった部分を認め、付き合ってくださるお客さんがいることは大変ありがたいことですね。

 手塩にかけて作ったお店がオープンすれば、ビジネスとしては一旦終了となりますが、実はその瞬間から、デザイナーとしての本当の勉強が始まります。その店が時代の中で何を求められ、どう変化していくか。それを一緒に見届け、反省して、どのように対応していくべきかを考えていくこと。ここまでが本当のデザイナーの仕事なんです。

安藤 素材感を活かし、消費者目線に立つ。単にキレイとかカッコイイではなく、どのように繁盛店になるかを、おせっかいなまでに考えるところが「神谷流」なんですね!最後に今後の展開を教えてください。

神谷 まずは、今まで通りのスタイルを変えず、今後も日本全国の飲食店や街づくりのお手伝いをさせていただきたいです。どんどん「おせっかい」を言わせてもらいたいですね。また、現在韓国にも事務所を構え、ロス、シンガポール、香港などでもお仕事をさせていただいていますが、積極的に海外展開も進めたいですね。その土地で日本人のDNA、かっこいいジャパニーズスタイルを求められれば、それはもちろん応えますが、基本的な考え方は、韓国なら韓国人に、アメリカならアメリカ人になりきって、その土地のカラーに染まっていくべきと思っています。

 その他には、いつか映画を撮りたいですし、6坪のちっちゃなバーのオーナーになって、店にも立ちたい。やりたいことは尽きません。「逃げる人生は苦し、向う人生は楽し」。結局、50代になっても、睡眠時間を削って、やりたいことをやっている生活。20代の頃と何も変わっていませんね。

神谷利徳
株式会社神谷デザイン事務所 代表取締役


 名城大学農学部を卒業後、独学で設計技術を学び、1987年に神谷デザイン事務所を設立。飲食店を中心にこれまでに1000軒以上の物件を手がけ、その多くを繁盛店にしている。神谷のデザインに対する考え方を収めたDVD「デザイン道虎の巻」(メディアジャパン)、著書「繁盛論」(アスキー・メディアワークス)が発売中。。

株式会社 神谷デザイン事務所 Head Office
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